冬の和歌10選!〜万葉集・古今集などから代表的な歌を厳選〜

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歴史・和歌
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ここでは冬に詠まれた有名な歌を中心に、恋の歌や、雪など冬ならではの自然の美しさを詠んだ歌まで幅広く紹介します。なお、古典の世界では、冬は10月〜12月までを指します。

万葉集

わが袖に 霰(あられ)たばしる 巻き隠し 消たずてあらむ 妹が見むため〈柿本人麻呂〉

歌意

霰が我が袖に飛び跳ねているが、袖で包み隠して消さないようにしておこう。そしてあの人に見せてあげよう。

妹(いも)とは、男性が妻や恋人など親しい間柄の女性に使う言葉です。柿本人麻呂の優しさが伝わってくる、寒い冬の歌でありながら暖かさを感じる歌ですね。

この柿本人麻呂の歌を踏まえて詠まれたとされる歌があります。それは鎌倉幕府3代将軍・源実朝の歌集『金槐和歌集』にある歌で、「もののふの 矢並つくろふ 籠手(こて)の上に 霰たばしる 那須の篠原」という歌です。歌意は、武士が背負っている箙(えびら)にある矢の並びを直していると、その小手の上に霰(あられ)が降りかかり、音を立てて飛び散っている。活気がみなぎる那須の篠原の狩場であることよ、となります。

新しき 年の初めの 初春の 今日降る雪の いや重け吉事〈大伴家持〉

歌意

新しい年のはじめである初春の今日、降り積もる雪のように、どんどん重なっておくれ、よいことよ。

新年の雪は豊年のしるしとされていたので、この歌ではお祝いの意を表現しています。大伴旅人の長男、大伴家持を中心に編纂されたと言われる『万葉集』はこの歌をもって幕を閉じます。

新年に雪が降ったら、いい一年になるようにこの歌を思い出して詠んでみるのもいいですね。

古今和歌集

山里は 冬ぞ寂しさ まさりける 人目も草も かれぬと思へば〈源宗于朝臣〉

歌意

山里はいつも寂しいが、とりわけ冬は寂しさがいっそう強く感じられるよ。訪れて来る人もなくなり、草も枯れてしまうと思うと。

百人一首にも採られている有名な歌です。冬は草木が枯れ、気温も低く、どこか寂しげな感じがします。それに加えて山里では訪れる人も少なくなり、心細い冬の山里での生活が想像されます。

この歌では「離れ(かれ)」と「枯れ」が人事と自然を重ねる掛詞になっています。また、倒置法によって余韻も生み出されており、古今集らしい技巧の凝った名歌です。

朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪〈坂上是則〉

歌意

ほのぼのと朝の空が白む頃、明け方の月が照らすかと思うほどに、吉野の里に降り積もっている輝く白雪よ。

吉野の冬景色の美しさを詠んだ歌で、百人一首にも採られています。夜明けを迎える頃、雪がわずかな光を反射して白く輝いている様子を、「有明の月」に見立てています。

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新古今和歌集

新古今和歌集では冬の歌を156首も収録しています。これは八代集の中で最も多い数です。

八代集とは?

神無月 風にもみぢの 散る時は そこはかとなく ものぞ悲しき〈藤原高光〉

歌意

神無月(すなわち10月)に、風で紅葉が散る時は、何ということなしに物悲しい気がするよ。

「天暦の御時、神無月といふことを上におきて歌つかうまつりけるに」という詞書があり、村上天皇の御時に神無月という言葉を歌の頭に置いて詠めとの勅命で詠んだ時の歌です。

新古今和歌集では、初冬から始まって齢暮に至る冬の歌を季節の推移の順番に掲載しています。この歌は冬の部の2番目にある歌です。

旧暦は今の太陽暦より約1ヶ月ほど早いため、この歌には神無月(10月)とあるので、11月くらいを想像すると良いと思います。秋から冬に季節が変わる時期は、冷え込みも厳しく、木々の葉が散り、なんとなく寂しく悲しい気持ちになるのは、今も昔も変わらないようです。

志賀の浦や 遠ざかりゆく 浪間より 凍りて出づる 有明の月〈藤原家隆〉

歌意

志賀の浦(琵琶湖の浦)では、湖岸が凍っていって波が岸から遠ざかっていく。その波の間から凍って出てくる有明の月よ。

志賀の浦は、現在の大津市坂本あたりの琵琶湖岸です。「遠ざかりゆく」とは、湖が岸の方から沖の方へ徐々に凍っていき、波打ち際が遠ざかっていく様子を言っています。その沖の波間から月が昇ってきて、凍った湖面を照らしている冬の情景が詠まれています。有明の月は、夜が明けても空に残っている月のことです。

この歌は本歌取りで、本歌は「さ夜更くる ままにみぎは 凍るらむ 遠ざかりゆく 志賀の浦波」(『後拾遺和歌集』)です。「遠ざかりゆく」を引用することで、みぎは(=水際)の凍る情景を歌の中に巧く取り込んでいます。

本歌取りなど、和歌の修辞法やその効果は別記事で詳しく説明しています👇

かささぎの 渡せる橋に 置く霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける〈大伴家持〉

歌意

かささぎが天の川に渡す橋に降りている霜が白く輝いているのを見ると、夜も更けてしまったのだなあ。

中国の七夕伝説に、織女と牽牛が会えるようにかささぎが翼を連ねて天の川に橋をつくったという話があり、それを踏まえて詠まれた歌です。「かささぎの渡せる橋」は、宮中の階段のことを言っていますが、天空の橋を想像して詠んだという解釈もあります。百人一首に採られています。

田子の浦に うち出でて見れば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ〈山部赤人〉

歌意

田子の浦に出て遥か遠くを仰ぎ見ると、真っ白に雪化粧した富士山に、しきりに雪が降っていることよ。

この歌も百人一首に採られてるので馴染みがあると思います。万葉集では表記が若干異なり、「田子の浦ゆうち出でてみれば真白にそ富士の高嶺に雪は降りける」となっています。作者の山部赤人は、薩埵峠を越えて目の前に現れた真っ白な富士山に感動してこの歌を詠んだことでしょう。

現在の田子の浦港は富士山のちょうど南側にあり、富士山を望む展望公園も整備されているのでぜひ訪れてみてください。

今日ごとに 今日や限りと 惜しめども またも今年に 逢ひにけるかな〈藤原俊成〉

歌意

大晦日の今日が来るたびに、「今日が最後であろう、来年の大晦日には遭遇できないだろう」と思って毎年、年の暮を惜しむけれど、また再び今年の大晦日に出逢ったことである。

作者の藤原俊成が88歳の時に詠んだ歌です。「今日ごとに」と言うのは大晦日ごとにと言う意味で、今年が最後かもしれないと毎年大晦日に思うものの、また大晦日がやってきたという老年の心情が詠まれています。当時の和歌には決められたお題に沿って詠む歌もあれば、このようにその時の感情を直感的に詠みあげた歌もあります。

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金葉和歌集

淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に いく夜寝覚めぬ 須磨の関守〈源兼昌〉

歌意

淡路島と須磨を通う千鳥の物悲しい鳴き声に、幾夜目を覚ましたことだろう、須磨の関の番人は。

冬の須磨浦の風景を詠んだ歌です。千鳥の鳴き声は、哀れで切ないものとして歌に詠まれます。『源氏物語』の須磨巻を踏まえて詠まれており、流離の地の物悲しさを表現しています。

まとめ

このように冬の和歌には雪景色の美しさを詠んだ歌や、反対にどことなく寂しい心境を詠んだ歌まであり、春や夏とはまた違った良さがありますね。

冬以外の四季の和歌は別の記事で詳しく紹介していますので、あわせてチェックしてみてください!

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